佐倉統(日)、伊藤俊治(日)

バランスの美学

生命は神に吹き込まれるものでも、物質でもない。ゲノムを見ることにより、生命を情報としてみる時代になった。ここ最近の話である。生命の中で選択圧のようなものが働き、情報がコントロールされ、複製される。情報を掴み、編集することを生業にするデザイナーとの類似項は多い。一見、接点がないように見える「生命科学とデザイン」は、多くの関係性を共有しているのだ。
「生命は、異なるものと共生することによって、可能性を広げてきた」とゆったりした口調で語るのは伊藤氏。ここで、佐倉氏が1つの学説を引用。DNAが複製される際、正確にコピーされる回路とミスが多い回路の2パターンがあるというのだ。しかしそれゆえに、人はうまく進化できたのではないかと。2回路の共生こそ、適度な多様性を生み、生命を動かす原動力になっているのだ。「このように、生命が絶妙のバランスをもって情報をコントロールすることが美なのでは」という佐倉氏。デザインに関しても、全体を統一的に俯瞰し、問題を統合していく。つまり「デザインをデザインする」ということに美しさがあり、現在問われていることでもあるのだ。(是)

大貫卓也(日)

大貫マジックをタネあかし

ジャケットに素足&スニーカーで軽快に登場した大貫氏。いきなりの大前提が、今どき人は広告に興味がない、とさすがに厳しい見解。そして、分かりやすい広告とは表現がシンプルなものではなく、本質的にはどんどん盛り込む足し算作業であるとした。そして越えるべきハードルは、目立つ、新しい、簡単で速い、企業カラーがある、シズル感、商品が動く、の6項目。氏のカップヌードル、ペプシコーラ、C.C.レモン、キリンビール、としまえん、ラフォーレと、当時一世風靡したCMたちに皆微笑む。カンヌも認めた原始人もあのペプシマンも決してなんとなく決まったのではなく、個々の企業の要望にソリューションしていったことが判明。商品を理解して認知したターゲット層を大量に生産した結果、C.C.レモンはV字回復、ペプシコーラも売り上げを伸ばした。そして、企業の顔をビジョン化する我々デザイナーの責任はとても重いのだ、と身の引き締まるお言葉を頂いた。(坂)

[ライター] 池端宏介/是方法光/坂本順子/紫牟田伸子/長谷川直子/久永理/武藤櫻子/吉岡菜穂/Maggie Hohle/Helmut Langer/Nicole Rechia/Andreas Schneider/Trysh Wahlig/Gitte Waldman/Robert Zolna
[撮影] 浅井美光/勝田安彦/水谷文彦